ワーキングから生まれたカジュアルウェアはこんなにある
悪いニュースが多いアパレル業界において景気の良い話題が多いワークマンですが、ワーキングユニフォーム業界というのは、長らく安くて高機能な作業服を作り続けてきました。昔はデザインがダサかったのですが、そのデザインさえある程度修正すれば、ワークマンに限らず売れるのは当然だといえます。
カジュアルに進出することはワークマンのみならずワーキングユニフォーム業界の悲願だったといえます。世間的にはあまり知られていませんが、ワーキングユニフォームメーカー各社は以前からカジュアル業界進出への挑戦を続けてきました。
例えばディッキーズです。ビッグジョンがライセンス生産し、それがディッキーズジャパンに移籍し、そのディッキーズジャパンもついに解散してしまいましたが、ビッグジョンがライセンス生産をする前はワーキングユニフォーム大手の自重堂がライセンス生産していたのです。
一方、BMCはジーンズカジュアル出身で現在ワーキング業界へ進出しようとしており、一見すると逆の動きに見えますが、実は非常に理にかなっています。まず、ジーンズというアイテム自体がワーキングユニフォーム出身なのです。ですからワーキングとカジュアルは出自からいっても親和性が非常に高いのです。ワーキング出身のジーンズがカジュアルになり、そのジーンズカジュアル出身のBMCがワーキングへ進出するというのは原点回帰みたいな感じだといえます。ただ、これまではカジュアルからワーキングへ進出しようとしたメーカーやブランドはありませんでした。
理由は簡単で、70年代~2000年代までの30数年間はカジュアルがワーキングよりもはるかに売れていたからです。もちろんヴァンヂャケットや日本ハーフのように倒産したメーカーもありましたが、カジュアルアイテムは全般的に好調だったのです。本業が好調ならわざわざ他分野に進出する必要はありません。
しかし、2005年以降、大手ジーンズメーカーの経営破綻や縮小に代表されるようにカジュアルが苦戦に転じました。こうなると他分野へ進出するほかありませんが、ワーキングを選んだのは知っている限りにおいてはBMCくらいではないかと思います。そういう意味ではコロンブスの卵的な戦略だったと言えます。
そんなわけで今回は、ジーンズ以外のワーキング出身のカジュアルアイテムをいくつかご紹介したいと思います。
-
カーゴパンツ
カーゴパンツは腿の両脇にポケットがあり、ジーンズをファイブポケットパンツと呼ぶことに対して、シックスポケットパンツとも呼ばれます。軍服のイメージがありますが、もともとは貨物船(カーゴ)の船員が穿いていた作業用のパンツです。そこから軍服に採用されるようになりました。ワーキングから派生してミリタリー、カジュアルへ転用されたパンツです。そして今でもワーキング用としても使われている息の長いパンツです。
-
ペインターパンツ
片方の腿には細長いポケット、もう片方にはループ状の生地が縫い付けられているパンツです。これはペンキ塗りの職人が穿いたといわれているパンツです。ループにはトンカチなどを引っかけて使っていたそうです。現在、塗装職人がこの形のパンツを穿いていることはあまりなく、カジュアル用のアイテムとして使用されていることが多いワーキングカジュアルパンツといえます。
-
カバーオールジャケット(カバーオール)
このジャケットはワーク風のジャケットの総称として使われることが多く、ジージャンよりは丈が長く、お尻が隠れるくらいの丈が最も一般的。生地はデニムやカツラギ、シャンブレーなど様々な種類が使われます。詳細に見てみると、レイルロードジャケット、エンジニアコート、バーンジャケットなどの種類がありますが、これらを総称してカバーオールと呼び習わしています。
-
エンジニアブーツ
靴ひものないブーツで、もともとは1930年代のアメリカで作業員のために生み出されたレザーのブーツです。しかし、現在ではカジュアル用のブーツ、バイク用のブーツとして用いられています。技術の進歩で安全靴にはレザーが使われなくなり、1950年代から60年代のアメリカの若者がカジュアルファッション用として使用し始めて今に至っています。
これら以外にもオーバーオールやベイカーパンツ、ショップコートなどなど、ワーキングから生まれたカジュアルアイテムが数多くあります。そんな親和性の高いワーキングとカジュアルですが、70年代~2000年にかけてはクロスオーバーすることなく、異業種として進んできましたが、ここに来てにわかにクロスオーバーし始めたといえます。
高機能で低価格な現代のワーキングが今後どのようにカジュアルに影響を及ぼすのか注目してみてください。
ライター:南 充浩(みなみ みつひろ)
1970年生まれ。大学卒業後、量販店系衣料品販売チェーン店に入社、97年に繊維業界新聞記者となる。2003年退職後、Tシャツアパレルメーカーの広報、雑誌編集、大型展示会主催会社の営業、ファッション専門学校の広報を経て独立。現在、フリーランスの繊維業界ライター、広報アドバイザーなどを務める。 2010年秋から開始した「繊維業界ブログ」は現在、月間20万PVを集めるまでに読者数が増えた。2010年12月から産地生地販売会「テキスタイル・マルシェ」主催事務局。 日経ビジネスオンライン、東洋経済別冊、週刊エコノミスト、WWD、Senken-h(繊研新聞アッシュ)、モノ批評雑誌月刊monoqlo、などに寄稿 【オフィシヤルブログ( http://minamimitsuhiro.info/ )】
<関連記事>