アパレルの在庫問題を解決するのはMDの精度? – 勘性とそろばんのバランス(前編)
「ファッションは感性やセンスが最も重要である。」
筆者がファッション教育を受けた時代はそんな風に言われる事も珍しくありませんでした。
しかし、業界を取り巻く問題の多くは最終的に数字になります。「売上」「粗利」「営業利益」「在庫金額」etc。重要な数値を挙げればキリがありませんが、ファッション産業も当然の如く「商業」であり、売れなければクリエイティブな活動も継続はできません。
感性が重視される業界において、数字をしっかり見れる人はごくわずか。そんな状況に警鐘を鳴らし続けている方がいらっしゃいます。
【著者】佐藤正臣(さとうまさふみ) 95年(株)ノーリーズにアルバイトとして物流倉庫からスタートし、店頭勤務7年(レディース)。02年より(株)ノーリーズにおいてメンズ(フレディ&グロスター・ノーリーズメンズ)立上をMDとして担当。10年よりフリーランスとして活動開始。シャツメーカーの新ブランド開発の企画サポート。その他、新規ブランドの立上マーチャンダイジング計画など、様々なフィールドで活躍したのち、14年5月末、株式会社エムズ商品計画を設立。小売り企業へのMDアドバイスや専門学校での講義・また海外での講義等。現在、多方面で活躍中。www.msmd.jp
今回の対談は、そんなMDのエキスパートである佐藤マサさんにブリッツワークス代表の青野氏がお話を伺ってきました。
Q. お二人の数字に対する取り組みを教えてください。
青野:社内のお話をすると、現状は僕しか数字が見れないんです。だから今、社員に数字が見れるよう勉強させてるんです。アパレルって数字に弱い人が本当に多い。だから会社の売上・粗利・販管費などの数字を全て公開するようにしました。
そうなると社員もシビアに数字を見出し始めましたね。それまでは全く知ろうとしなかったので。
今では、人件費以外は会社のホワイトボードに全て掲載しています。関係者全員に数字の意識が無いと、会社の悪いところが見つからないですから。
もらっている給与に対して、自分はどれだけ成果を出しているのか、または出していないのか。適正な給与なのかどうかを考えてもらいたいんです。何だったらデザインチームにも同様の事を課してます。その結果、誰がどれだけ利益を出しているのか全部わかるから、組織として健全な状態を保ててますよ。
実はマサさんの本も読ませたりしてるんですよ。
社員が読み終えたら、ちょうどマサさんに講義してほしいと思ってたんです。会社が拡大すると部下もどんどん増えてくるでしょうけど、そうなると部下に定量的な指示ができないといけないでしょ。将来的にそういう上司になってほしいんですよね。
そこで気になったんですけど、マサさんはなんでそんなに数字を意識してるんですか?販売からMDに上がって、そして起業するに当たって、どのタイミングで数字を意識し出したんでしょうか?
佐藤:実は販売員の時から数字は意識していたんです。数字に興味の無い販売員って多分いないんですけどね。でも8年くらい前まで、つまりノーリーズでMDやってた時は今のような知識はゼロでしたね。
数字の知識無くても売る事って可能なんですよ。お客さんの欲しいものをキャッチできる力があれば。そういう力持ってる人ってアパレルに多いし。
自分もそれが出来ていたから天狗になってたんですよ。でも会社辞めたときに何もできない事に気付いたんです。今振り返ってみると、感覚的な部分を重視してたんですが、それだと部下に教える事はできなかったですね。誰にでも言える事だと思いますが、変に成功体験あると、そのプライドが邪魔して学ぶのを怠るんですよ。
青野:何がきっかけで数字をちゃんと学ぼうと思ったんですか?
佐藤:師匠との出会いですね。アダストリアで勤務していた時に、僕の企画したノーリーズの服を全身着ていた方がいたんですよ。この商品「よく出来てるね」って言ってくれて。で、よくよく話してみると、お前は「感性」でなく「勘性」が優れていると。これは商売勘の事ですね。でも数字に関しては無知すぎると。そこから師匠について学ぶことになったんです。
それが地獄の始まりでした(笑)。師匠は教え方が下手すぎだし、パワハラだらけだったんです。今の時代だと一発でアウトですね。
自分が何故「わかりやすく教えよう」と思ったかというと、その経験があるから。どんなバカにでもわかるようにって思いながら教えるようにしています。そうなると、自然と部下の成長につながるんです。僕が今の仕事をやるきっかけになったのも、後輩から数字を教えてと言われたからです。「わかりやすいし、これ仕事にした方がいいですよ」って言ってもらえたんですが、その時に、現場の人たちを教育して自発的に動いてもらう事が一番改善につながるって気づいたんですよ。自分は儲からないけどね(笑)
「わかりやすく教える」って言葉で言うと簡単に聞こえますけど、数字をわかりやすく言うためにはバカみたいに勉強しないといけなかったんです。余談ですけど、アパレルのコンサルしてる人たちって大体が勉強不足なんですよ。結局やってる事って上から目線でマウンティングしてるだけ。大手で培った手法をあてはめたら業績が上がると思ってるんです。でもそれじゃ誰にもやり方は伝わらないし、売上も伸びませんよね。
青野:僕もコンサルの人ってダメなんですよ。そんなに力あるんなら何で自分でやらないのかって思っちゃう。現場で、実務をちゃんとこなしてきた人の言葉でないとスッと入ってこないんですよ。マサさんのお話は現場での経験ありきだから腹落ちしやすいんですよ。
佐藤:実務者には好まれますよね。経営者には嫌われるけど(笑)でも、そんなコンサルや上司から、ふわっとした指示が来ると実務者は白けますよね。実務者を白けさせていい会社なんかできませんよ。
そういう組織の上層部に限って数字を下に公開しなかったりします。数字なんて隠す意味無いですよ。アルバイトにすら見せた方がいい。その方がみんなやる気が出る。そんな、わかりやすい数字使って実務者のやる気を出さすべきなんです。
Q.お二人が商品企画する時ってどうやってますか?
佐藤:弱みじゃなくて強みに目を向けますね。例えばノーリーズの時って、自社に物作りのインフラがあったんです。それなのにセレクトに寄っていた。それは勿体無いから前面に出すべきだと思い、自社のアイテムを増やしていったんです。そこから売上・利益が段々伸びていきましたね。僕がやめてからはまたセレクトに戻ったようですけど。
青野:マサさんが企画する時って、仕入れに対して粗利や販管費がどの程度になるとか、そういったことを事前に考えていたんでしょうか?
佐藤:当時はその考え方は無かったですね。卸の人ってそこまで数字に興味がないから青野さんみたいな意識持ってる人は初めて見ましたよ。
卸の人たちには、自分たちの商品が最終的にはどこで無くなってるかを意識しないと終わるよっていつも言ってます。B to Bで小売店に卸したら終わりじゃない。その商品がどこに並んで、どこで売れていって、場合によっては売れなくてセールになって、という流れを見て検証しないと、次の企画に活かせないから意味が無いんですよ。
あと、卸でよくいるのは、「ビームスさんこれオーダーしましたよ」って言う人。本当にバカじゃないかと思う。小売側も同じ事言ったりしますけどね。「UAさんどれオーダーしました?」とか。こういうのって品揃えを考えてないって言っているようなものです。自分の店のどこの棚にどういう位置付けでこういう商品があればバイイングするって考えるのが普通です。ショップコンセプトってそういうことだから。
青野:例えば卸側から小売店に「消化率ってどのくらいですか?」って聞いたら、「60%」と答えが帰ってくるとします。それだけ聞いたら「優秀な店舗だな」って思うんですけど、SCに出店してたらそれプロパーで売れてないよねっていつも思うんです。それって意味のある指標なのかと。
佐藤:僕はこれ以前からずっと言ってるんだけどプロパー消化率って必要ないって思ってます。仰る通り、消化率って切り取り方で大きく変わりますよね。だからごまかせないルールにしないと、いくらでもごまかしが効いてしまう。メディアでもよく意味のない指標が報じられてますけど、それも全部ごまかせないルールにしていないから。本当に一番いいのは現場まで足運んでカウントする事ですね。どのアパレルも使い物にならない数字を使ってる場合じゃないですよ。
ていうか、こういう事って別に相手に聞かなくてもいいんですよね。現場見て、店頭の動きみて、仮説立てて考えることが重要なんです。それで予測の精度上がりますしね。
青野:でも仮説立てれない人って本当に多いですよね。
Q. 仮説・検証が商品をアップデートするという事でしょうか?
佐藤:商品分析は逆説で考えた方がいいんですよね。例えば、在庫が多いとか少ないとかは見たらわかります。だから、売れてるけど「これ終わるかも?」って考えることが重要なんです。そこに仮説を立てるんです。
逆に売れてない商品でも「お客さんめっちゃ見てる」ってなると、「何がいけないんだ?」って、そこから仮説立てます。実はそこに一番ヒントがあります。分析の目的はお客さんの先の行動を読むことです。だから常に逆説で仮説を立て続けることが重要なんですよ。
青野:弊社でも商品企画の段階で仮説を立てるんですが、それで利益を出すものばかり作ると、去年と同じ物とか、去年の物の改良版とか、そういうものばかりになるんですよ。売れてるものばかり在庫を積むと、もちろん売上は上がるんですけど、ブランドってそれだけじゃダメだと思うんですよ。
今、新商品を企画してるんですけど、これは先のシーズンを見越した布石として作ってるんです。この商品、受注数がすごく少ないんですが、それってつまり現金化できない商品を置いてるって事になります。それでもブランドの先を考えたら、作っておかなければならない。そんな商品ってありませんか?
佐藤:アホだなって思うMDやバイヤーは全ての商品を売ろうとするんですよ。商品の中には、実験的に投入している商品もあるし、これがあるから隣の商品が売れるっていう商品もあります。そういう商品って売れなくていいんですよ。
青野:それってロスを最初から考慮した上でMDを設計するってことですよね?
佐藤:はい、それは数字の知識が無い時からもそうしてましたね。現場行ってたら、必要性を肌で感じるので。
青野:そういう商品は意識的に仕入れ減らしてました?
佐藤:極端な話、1点でいい物もあります。最悪、誰か社販してくれたらいいなってくらいですよ。
青野:現場からくる感覚値ってことですかね。
佐藤:それこそ仮説立てて実験してるって感じですよね。
青野:生産の際、その商品が売れないのをわかってて作らないといけない時もありますよね。ロット考えると点数積まないといけないから。
作っても利益が残らないってわかってるんですけどね。だから、その分を考慮した上で売上をどう作るか考えないといけないんです。
佐藤:その通りです。でも、それってその商品がどれだけ売れるかって予測はついてるんですよ。だらか事前にそれを踏まえた上での計画を立てる必要があるんです。余るのわかってるなら、先に捌き方を考える。これを僕は「前始末」って呼んでる。後始末って労力もお金もすっごくかかるんです。でも前始末って大したことないんですよ。初めから余る数量わかってたらどう対応するか簡単なんで。
青野:「前始末」…。いい言葉ですね。そうなると世の中の事は全て前始末で変わってきますね。
佐藤:前始末できないならブランドなんかやるべきじゃないですよ。昔はやらなくても生き残れたんですけど、今ってそんな時代じゃない。何かを掛け合わせないと生き残れない。それを実行するには決断力や、前始末のようなリスクヘッジが必要。要はマネジメント力ですね。
(後編へ続く)
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