ユニクロのイージージーンズの生地は織物?編み物?
ジーンズという商品は非常に便利で、色落ちしても破れても穿き続けられます。こんな服はほかにはありません。
しかし、不便な点もいくつかあります。その中の一つが生地が硬いという点です。ストレッチ混のデニムが開発されて、それも随分と軽減されましたが、Tシャツやセーター、スエットほどの伸縮性はありませんでした。
そこに登場したのが、いわゆる「ジャージデニム」とか「ニットデニム」と呼ばれる商品群です。2011年にディーゼルが「ジョグジーンズ」を発売したことがきっかけで、エドウインのジャージーズやユニクロのイージージーンズなどが生まれました。
「ジャージ」とか「ニット」と呼ばれるくらいなので、伸縮率が高く、着用感は快適です。特に立ったり座ったりという動きが格段に楽です。
ではこの生地は織物なのでしょうか編み物なのでしょうか?
生地は3種類しかない
生地は織物と編み物、それから不織布の3種類しかありません。その昔には組み物という技法もありましたが、今ではほとんど使われていません。
織り物は経糸と緯糸を交差させて生地を作り上げる方法で、編み物はループを作って編んでいくという方法です。織物はストレッチ糸を入れなければ伸縮性は低く、デニムは綾織りという織物なのです。
編み物はストレッチ糸がなくてももともと伸縮性が高いことが特徴です。
で、ジャージデニムと呼ばれる商品の伸縮率は非常に高いのですが、実は現在生き残っているメジャーな商品のほとんどは「織物」なのです。
2011年に発表されたディーゼルのジョグジーンズ自体が織物を使用しています。しかし、その後、文字通り本当に「ニット」や「ジャージ」の生地でジーンズっぽい商品が少なくないブランドから発売されました。ところが、そのほとんどが継続されずに終わってしまい、今残っているジョグジーンズやジャージーズ、イージージーンズなどのメジャーな商品はすべて織物で作られています。
ではどうしてニット生地・ジャージ生地は廃れてしまったのでしょうか。
“ジーンズ風”ニット・ジャージーが廃れた理由
それはいくつかの理由がありますが、最大の理由として考えられるのは、ジーンズ独特の中古加工を施すことが難しかったからだということです。
中古加工、とくに「ヒゲ」や「アタリ」と呼ばれる加工は、擦って色落ちさせることが主流でした。長時間擦ればその分、糸は弱くなり中には1本や2本切れてしまう糸も出てきます。
織物は何千本何万本という糸が交差して作られているので、1本や2本糸が切れても、穴が開くことはありませんし、穴が開いたとしてもどんどん広がってしまうということがありません。しかし、編み物は糸でループを作り絡ませあっているので、糸が1本切れると穴が開きますし、その穴がどんどん大きく広がってしまいます。生地の特性として中古加工には不向きなのです。
またそれ以外にも織物よりもヒゲやアタリが出にくいという特性もありましたし、着用するとすぐに膝が出てしまうという欠点もありました。
これらの理由で、本物のニットを使ったジーンズは姿を消していきました。
ですので、現在メジャーな商品は「ニットくらいに伸縮率が高い織物」を使っているのです。
ただし、業界の人でも織物と判別するのが難しいようで、中にはこんな意味不明の記事もあります。(笑)
編まれて作られているスウェット素材をデニム生地のように織ることで、ジーンズとしてのルックスをキープしたままスウェットの着用感を味わえる逸品。
https://zozo.jp/fashionnews/tasclap/107050/
はっきり言って、何を言っているのかさっぱりわかりません。編まれて作られた生地と織って作られた生地は全くの別物です。
ではどうしてこんな意味不明の記述が生まれるのでしょうか。
それは、これらメジャー商品の生地の裏側に特徴があります。裏側はまるでスエット生地のようなループがあるように見えます。特にユニクロのイージージーンズの生地はそう見えます。スエット生地のことを業界では「裏毛」と呼ぶのですが、一見すると裏毛に見えるのです。
生地に詳しくない業界人はそれで混同してしまうのです。
種明かしをすると、これらのメジャー商品に使われている生地は二重織りのバリエーションの一つなのです。
裏側にループのようになっているのは緯糸なのです。通常のデニムだと緯糸はピンと張られたまっすぐな状態なのですが、これらで使用されている生地は、緯糸を少し弛ませているのです。その弛み具合が裏毛のループに見えるというわけです。
弛ませているおかげで、通常のストレッチデニムよりも高い伸縮性が実現できています。伸ばし切ったゴムよりも弛んだゴムの方がよく伸び縮みするのと同じ原理です。
そんなわけで、ジョグジーンズもジャージーズもイージージーンズも編み物のようですが、れっきとした織物で作られていますので、ここの読者の皆さんはお間違えしないでくださいね。
それではまた次回。
ライター:南 充浩(みなみ みつひろ)
1970年生まれ。大学卒業後、量販店系衣料品販売チェーン店に入社、97年に繊維業界新聞記者となる。2003年退職後、Tシャツアパレルメーカーの広報、雑誌編集、大型展示会主催会社の営業、ファッション専門学校の広報を経て独立。現在、フリーランスの繊維業界ライター、広報アドバイザーなどを務める。 2010年秋から開始した「繊維業界ブログ」は現在、月間20万PVを集めるまでに読者数が増えた。2010年12月から産地生地販売会「テキスタイル・マルシェ」主催事務局。 日経ビジネスオンライン、東洋経済別冊、週刊エコノミスト、WWD、Senken-h(繊研新聞アッシュ)、モノ批評雑誌月刊monoqlo、などに寄稿 【オフィシヤルブログ( http://minamimitsuhiro.info/ )】
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