90年代以降のジーンズの歴史を振り返る① ソフトジーンズブームからビンテージジーンズブームへ
今回はファッションにおけるジーンズの歴史を振り返りたいと思います。
とはいっても、炭鉱夫の作業着として云々は掃いて捨てるほど語りつくされていますから、90年代以降のジーンズファッションの歴史を振り返ってみたいと思います。
〇90年代前半
70年代のベルボトム、ブーツカットジーンズブーム、80年代のモンペ型スリムジーンズブーム、ケミカルウォッシュブームを経て80年代末期から90年頃には、映画「トップガン」の大ヒットから、MA-1型ブルゾンとリーバイス501に代表されるレギュラーストレートジーンズが人気となりました。自分がリーバイス501を穿き始めたのも91年頃のことです。
92年ごろから新たなアイテムとして、レーヨン素材をメインに使用したソフトジーンズが大ブームとなります。93年・94年のメンズファッション雑誌はレーヨンジーンズ一色でした。
このレーヨンジーンズブームを牽引したのがボブソンです。レーヨンを置き換えた「04ジーンズ」で会社が始まって以来の大ヒットとなりました。
レーヨンジーンズの特徴はそのソフト感・ドレープ感にあり、それまで「硬くて穿きづらい」と言ってジーンズを敬遠していた中高年層の支持も得ました。しかし、当初のレーヨンジーンズには大きな欠点もありました。それはレーヨンという素材がもともと持っていた最大の欠点がそのまま反映されていました。
同じ「レーヨン」と言っても今のレーヨンは、この当時のレーヨンから相当に改良されています。
この当時までのレーヨンの最大の弱点は「洗濯をするとシワくちゃになる」という点でした。握りつぶして丸めた紙屑くらいシワくちゃになったのです。これを解消するにはアイロンがけしかありません。ですから、発売当初のレーヨンジーンズは洗濯をするごとにアイロンがけをしなくてはならないので、非常にめんどくさいズボンでした。
もちろん、ボブソンの大ヒットに他のメーカーも追随しました。ラングラー、リーバイス、エドウイン。ビッグジョンだけは自分が勤める店では扱っていなかったので、どんなソフトジーンズを発売していたのかは知りません。リーバイスはちょっとソフトジーンズの企画が下手くそで綿100ジーンズに近い商品に仕上がってしまい、店ではあまり売れませんでした。意外に出来が良くて売れたのがラングラーでした。自店ではエドウインもあまり取扱量がありませんでしたが、リーバイスのソフトジーンズよりは出来栄えが良かったと記憶しています。
これらの大ヒットのおかげなのかどうかはわかりませんが、「シワくちゃになりにくいレーヨン」が開発され、次第にジーンズに使用されていくようになります。94年にもなると、シワくちゃが改良されたポリノジックとかタフセルとか呼ばれるレーヨン系素材がジーンズに使用されるようになり、アイロンがけなしでも洗濯シワが気にならない程度となり、一層、消費者からの支持を集めることになります。
〇90年代半ば
95年頃になると、ソフトジーンズブームにも一服感が出てきて、違う商品に注目が集まり始めます。これがビンテージジーンズです。
このビンテージジーンズブームで培われた素材や洗い加工法が2008年頃まで国内ジーンズ業界のスタンダードとして長らく君臨することになるとは、この当時の自分には思いもよりませんでした。(当時25歳)
今の若い方はご存知ないかもしれませんが、80年代から90年代半ばにかけて、デニム生地というのはどんどんと「色落ちしにくく、ソフトな肌触り」に進化していました。普通に考えて、ジーンズの色落ちというのは美点というよりは欠点ととらえる人が多いのです。そして硬い肌触りよりはソフトさを求める人の方が多いのです。
ですから、表面感は滑らかで柔らかに、そして色落ちしにくいというデニム生地が80年代から90年代半ばにかけて支持を集めます。ソフトジーンズブームもこの一環としてとらえることができるのではないかと思います。
しかし、ビンテージジーンズブームはその真逆の商品が持て囃されたのです。ヒゲと呼ばれる色落ち、硬くて凹凸感のある表面感のデニム生地、タテ落ちと呼ばれる細かい色落ち、などなどです。
95年には、ナイキのエアマックス95とビンテージ(風)ジーンズを組み合わせるのが最高にカッコいいコーディネイトとされていました。
この辺りに生まれたのがエヴィスやドゥニーム、ダルチザン、シュガーケーンなどのビンテージレプリカブランドです。
リーバイス、エドウインなどの大手メーカーも当然のことながら、こちらにシフトし、97年には最早ソフトジーンズは誰にも見向きもされなくなってしまいました。いとかなし。
リーバイスはビンテージの本家本元みたいなところがありますから、「〇〇年代モデル」という過去の商品の復刻版を発売し大いに注目されました。エドウインは謎のロット番号「505」というビンテージ風商品を発売し、こちらも大いに売れました。理由は他のビンテージ(風)商品に比べて割安だったからです。それまでの通常ジーンズとほぼ同じ価格である7900円、8900円、9800円くらいで発売したからです。他の商品が1万円を越えていたことと比べると割安感があります。
自分も2本買ってみましたが、よほどのビンテージマニアでない限り何の不満もない仕上がりで、非常にコスパの高い商品でした。今、当時の値段のままで復刻されたら間違いなく1本か2本買いたいくらいです。
ビッグジョン、ボブソン、ラングラーはこの流れには少し乗り遅れた印象があります。ラングラーはまだしもビッグジョンとボブソンは転換しきれなかったという印象でした。
しかし、このビンテージジーンズブームはメンズが牽引した最後のジーンズブームとなってしまうのですが、この当時の業界人は誰もそんな未来を知る由もありませんでした。
あれ?ちょっと熱が入りすぎて予想外に長くなってしまいました。あまり長すぎても読みづらくなってしまうので、次回以降、何回かに分けて書き続けたいと思いますので最後までよろしくお付き合いください。
ライター:南 充浩(みなみ みつひろ)
1970年生まれ。大学卒業後、量販店系衣料品販売チェーン店に入社、97年に繊維業界新聞記者となる。2003年退職後、Tシャツアパレルメーカーの広報、雑誌編集、大型展示会主催会社の営業、ファッション専門学校の広報を経て独立。現在、フリーランスの繊維業界ライター、広報アドバイザーなどを務める。 2010年秋から開始した「繊維業界ブログ」は現在、月間20万PVを集めるまでに読者数が増えた。2010年12月から産地生地販売会「テキスタイル・マルシェ」主催事務局。 日経ビジネスオンライン、東洋経済別冊、週刊エコノミスト、WWD、Senken-h(繊研新聞アッシュ)、モノ批評雑誌月刊monoqlo、などに寄稿 【オフィシヤルブログ( http://minamimitsuhiro.info/ )】